しあわせの会


概要
謎のプロジェクトチーム。1994年夏、タイニイアリスに突如出現し、超大傑作「力こぶ」を上演した。今後の活動等は一切不明だが、また公演を打つ意志はあるらしい。期待したい。

構成員
主な作家
手塚とおる
主な演出家
松本きょうじ
主な役者
黒沼弘巳
高橋克美
大久保了
中原和宏
主なスタッフ
劇団の公式ホームページ
不明(たぶんない)

過去の公演

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力こぶ (94.9)


 これは傑作ではないでしょうか。タイニイアリスでこんないい
芝居をみれるなんて……(絶句)
 客席はガラガラでした。土曜マチネで50人くらいしか入って
ません。もったいないお化けが出ます。

 入口付近から舞台上手手前へと、客席を斜めに横切る薄く細長い
材木。その材木に沿って1m幅ほどにとられた通路以外には、舞台
への出入口は見当たりません。タイニイアリスの狭い舞台一杯にと
られた部屋は、そのことだけで十分にリアルにみえます。奥の壁に
切られた窓の外には、建築中の建物を覆うビニールシートらしきも
のと、機械の使い方の注意を記した看板が見え、打ちつけられた雨
が上の方から流れています。左右の壁には、なんたら週間という類
のポスター数枚、消化器と火元責任者を示す貼り紙、金具にかかっ
たヘルメットなど。上手奥には灰色のロッカーと雑誌の山、手前に
は金属缶の傘立てに透明ビニール傘。下手奥には黒いソファーが一
脚、手前にはビールの空き瓶が詰まった薄汚れたケースが二つ。中
央には四角い机を囲んで、椅子3脚。それぞれに、黒いカバンがひ
とつずつ掛かっています。このセットを見ただけで、これから始ま
る芝居のカラーが伝わってくるようです。素朴さ自然さの裏に隠さ
れた丁寧さ。ある種のリアリズム。さみしさと閉塞感。……。

 役者は、客席の後方脇の暗幕の隙間から出入りします。舞台の上
手手前が部屋=仮設の小屋の出入口の見えないドアになっていて、
そこから外、客席を横切る通路は野外にあたります。そこを通る役
者は、傘やら手拭いやらをかぶって小走りに駆けていきます。

 登場するのは、土方4人。雨のため作業をはじめられず、手持ち
ぶさたな待ち状態にあります。しかも、一人は仕事中の怪我で病院
に運ばれたまま。はじめに登場する高橋克美の発する重苦しい雰囲
気は、そのせいであることが会話の端々から浮かんできます。高橋
は、落ち着いた分別ありげなマッチョマンです。

 それに絡む大久保了は、巨漢の若手で、明るいけれどおどおどし
てもいます。部屋に誰もいなくなるたびに、他人のカバンをのぞい
たり、中身を拝借したりします。そう、盗癖があるのです。

 大久保が外に出る時、高橋は自分のヘルメットを貸してあげるの
ですが、大久保は高橋がいない時にそのヘルメットを床に無造作に
落としてしまいます。大久保が高橋に借りたライターをものほしそ
うにいじっていると、高橋はそれをあっさり大久保にあげてしまい
ます。高橋は自分のかばんから封筒が消えているのに気付いたとき
も、何も反応せずに見過ごしてしまいます。ほんのわずか、あれっ?
という感じのするところですが、とりあえずいったん意識から消え
てしまうくらいにわずかな「あれっ?」です。

 そんな大久保を必要以上にこき使い、殴ったりするのが中原和宏
です。背丈の小さい中原が大きな大久保の頭を張ったりヘルメット
のままヘッドバットを食らわす様は、迫力満点にしてちょっと滑稽
でもあります。窓やドアを開けてはタンをペッと吐く仕草も、見事
にサマになっています。そんな中原も高橋には一目置いているのか、
攻撃はもっぱら大久保に向けられます。

 3人が絡む前半のシーンで、残る一人、黒沼弘巳のけがについて、
断片的に語られます。作業中の怪我で、右手の人差し指と中指を切
断してしまい、しかも切断された指が見つからないのです。高橋は、
前夜黒沼が徹夜で麻雀していたことを知っていて、それを大久保に
明かすのですが、しゃべった後で、「絶対誰にもいうな」とやけに
強く口止めしたりします。

 ほかにポイントになるのが、ライターです。高橋が大久保にあげ
たジッポのライター。中原は煙草の火を大久保につけさせるとき、
そのライターに気付きます。例によって暴力的にそのライターを取
り上げる中原ですが、大久保にあっさり奪い返されてしまいます。
その間無言です。ライターから匂う香水のエピソード(女からプレ
ゼントされたライターの油に香水が混じっていて、火をつけるたび
にアソコが立つとかなんとか)が絡みます。この辺も、わずかに何
かを感じるのですが、それが何なのかははっきりはわかりません。
ほんとに、微妙な伏線です。

 そういった微妙な伏線が、随所に張り巡らされます。そのときは、
それが何なのかわからずに、わずかな引っ掛かりを感じる程度なの
ですけど……。

 話の転機になるのは、舞台上への黒沼の登場です。演技としては、
黒沼は他の三人と作り方が違っています。表情もしゃべりも、やや
過剰に作り込んでいる感じです。人はよさそうだけれど、気が小さ
いためにやや卑屈で情けない50男。妻に死なれて一人暮らし。う
しししし、というような笑い方がちょっとオタッキーです。彼の存
在は、今までの3人のシーンの雰囲気からは、わずかに浮いていま
す。ここにもまた、ずれが導入されます。

 高橋と黒沼、二人の会話から、黒沼が漫画を描いていることがわ
かってきます。しかし、怪我のせいでもう描けない。まだ描ける、
と励ます高橋、あきらめがつきました、と言う黒沼。二人の間にあ
る、互いを気遣う視線と仕草。直前に、大久保が中原に対して言っ
た、高橋がホモって本当ですか、という言葉がここで効いてきます。
空気が動きはじめます。

 大久保が例の盗癖で、黒沼のカバンから漫画の原稿をみつけたこ
とで、話はさらに動きます。驚いて原稿をみつめる黒沼を、戻って
きた中原が発見。慌てる大久保、問い詰める中原。高橋と黒沼も戻
ってきます。黒沼は慌てて自分の原稿を取り戻し、恥ずかしそうに
しています。漫画の件は、高橋しか知らない秘密だったのです。

 どうして高橋だけが知ってるの、とこだわる中原。八つ当たり気
味に大久保を責め、身体検査をして盗んだ品物を取り上げます。そ
こからは、高橋のカバンから盗んだ封筒も出てきます。

 その封筒には、漫画の不採用を告げる出版社からの通知が入って
いました。驚く中原に対して、高橋は事情を話します。年齢のせい
で出版社に取り合ってもらえない黒沼に替わって、代理応募をして
いるというのです。

 その漫画というのは、長屋だのフーテンだのが出てくる時代遅れ
の人情もの。結構味がある、と主張する高橋。時代遅れだ、へたく
そだ、とけなす中原。そして黒沼は、悪役の不動産屋のモデルが高
橋で、主役の男気のある優しい男が中原だと告白するのです。

 そこへ、出ていっていた大久保が走り込んできて、指が見つかっ
たと告げます。手術すればまだ間に合う、と。出て行く高橋と黒沼。
残る大久保と中原。

 そしてラスト、中原が大久保に、ライターを返せ、と言うのです。
あのライターは、俺が高橋にあげたものだ、お前、盗んだんだろ、
と。驚いて、もらったのだと弁解する大久保。そして最後には、中
原が、やっぱりいいや、とつぶやいて退場するのです。

 念のため解説すると、要するに、黒沼と高橋の間には何にもなく
て、実は黒沼は中原が好きで、中原は高橋が好きで、高橋は大久保
が好きだったということが示唆されているわけです。

 とストーリーを追ってきましたが、読んでおわかりのように、淡
々とした進行です。が、淡々といっても、つまらない淡々ではなく、
面白い淡々です。静かなリアリズム志向だと言えば言えるのですが、
その言葉から連想されるような退屈さがありません。

 更に言えば、あらすじだけを話しても、このホンの魅力の1割も
伝わらない気がします。細部が、本当に見事なのです。ホンの手塚
とおる、演出の松本きょうじのどちらをほめたらいいのかわかりま
せんが、ともかく小さな仕草やちょっとした会話が、すべて芝居の
中で生きているのです。

 そして、役者がまたすばらしい。劇中、黒沼が自分の漫画につい
て、「モデルがないと描けないんです」と言う場面がありましたが、
これは手塚の脚本にもあてはまることなのでしょうか。そう感じる
くらい、見事にはまったキャスティング、生きている演技でした。

 終演後のあいさつによると、この幸せの会というユニット、今後
も公演を打っていく予定のようです。メンバーや作家・演出家が固
定なのかどうか、気になるところですが……。

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【力こぶ】 幸せの会 Part1
  作/手塚とおる 演出/松本きょうじ
  出演/黒沼弘巳(新宿梁山泊) 高橋克美(離風霊船)
     大久保了(東京乾電池?)
     中原和宏(ツェッペリンシアター)
 1994.9.20-25 タイニイアリス 9.24Satマチネ 椅子最前列 50人
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(下の文章の文責:まねきねこさん)


9/22(木)7:30-8:55PM 雨 新宿・タイニイアリス しあわせの会PART1
「力こぶ」 作:手塚とおる 演出:松本きょうじ  客席8割(80人位?)

 にくいね。表立たない男同士の三角関係。自然体の舞台。短いのも○。

 お話し。とある飯場。今日も雨で作業は中止。男達はいらいらのいら。時間
 つぶし。それは、朝、けがで病院にいった松下のこともあるのだが・・・。
 新宿梁山泊・黒沼弘巳(松下)、離風霊船・高橋克実(釘本?)、東京乾電池
 ・大久保了(小浜?)、ツェペリンシアター・中原和宏(西田)の4人芝居。
 
 居そうな男々な土方達の秘密、秘めた想い。ごく自然な会話で淡々と。でも、
 微妙に色気を感じるねっとり空気が、たまらない。細かな仕草・目線や言葉の
 使い方が、巧い。にやりねこ。

 くせあり役者達では、高橋さんがお気に入り。感情をぐっと押えながら、
 からむ視線と、がっちり体のアンバランス。これもたまらない。


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にしかど(nskd@enpe.net)